【EDITOR’S PICK:HOTEL】群馬・前橋のアートデスティネーション「白井屋ホテル」Vol. 2 滞在を彩る建築とアート

2025/09/27 文・Meadow編集部

「白井屋ホテル」を象徴するコンクリート剥き出しの吹き抜け ©Shinya Kigure

Meadow編集部が出会った、とっておきの一軒を紹介する「EDITOR’S PICK:HOTEL」。今回は、前回の記事(群馬・前橋のアートデスティネーション「白井屋ホテル」Vol. 1 滞在を彩るゲストルーム、食とサウナ)で紹介した「白井屋ホテル」を象徴する建築やアートに焦点を当てていく。

創業300年の老舗旅館をリノベーションした「白井屋ホテル」。「ヘリテージタワー」&「グリーンタワー」2つの棟からなる空間には、一つとして同じデザインのないゲストルームや、国内外のクリエイターによるアート作品が随所に散りばめられ、訪れる人の感性を刺激する。

Vol. 2では、「白井屋ホテル」の代名詞ともいえる、世界的建築家 藤本壮介が手がけた新旧2つの棟から見ていこう。


世界的建築家 藤本壮介が手がける「ヘリテージタワー」&「グリーンタワー」

「白井屋ホテル」を構成する2つの棟。ひとつは、既存建築を引き継ぐ、コンクリート剥き出しの吹き抜けが印象的な「ヘリテージタワー」。もうひとつは、前橋のビジョン「めぶく。」を象徴し、旧利根川の土手をイメージして新築された緑あふれる「グリーンタワー」。相反する二つの要素が自然と調和する藤本壮介らしい建築だ。

馬場側通りから眺める「白井屋ホテル」 ©Shinya Kigure

2014年から6年半以上をかけて進められてきたプロジェクトだったという「白井屋ホテル」。藤本にとって最初のインスピレーションは、柱梁がむき出しになった4層吹き抜けだった。光の入り方や見る角度によってまったく異なる表情を見せるその空間に、ブリッジや階段を立体的に巡らせることで、都市を歩き回るような感覚を生み出した。通常のホテルなら床面積の拡張を優先するところだが、「白井屋ホテル」はあえてその逆を行き、ほかにない空間を追求した。

吹き抜けには、ブリッジや階段が立体的に交差する ©Katsumasa Tanaka

一方の「グリーンタワー」は、国道側から馬場川通り側へとかつての河岸段丘の高低差を描く不思議な地形を生かした建築。前橋に森をつくろうというアイデアから、かつてそこに存在していたかのようでありながら新しさも感じさせる、驚きと調和に満ちた「緑の丘」が誕生した。

旧利根川の土手をイメージして新築された緑あふれる「グリーンタワー」 ©Shinya Kigure

この2棟は、暮らす人と訪れる人が交わる“前橋のリビングルーム”を目指し、藤本壮介が建築から内装までを主導。その思いに共感する多彩なデザイナーやアーティストとのコラボレーションにより完成した。


ファサードを彩る、ローレンス・ウィナーのタイポグラフィー

国道沿いに立つ「ヘリテージタワー」の顔となるのは、言語を主要な表現手段とするアメリカのコンセプチュアルアーティスト、ローレンス・ウィナーの作品。前橋の歴史や風土にまつわる、風と川から着想を得た。山と平野が生む風や雨が大地を横切り、川となり、やがて海を経て世界へと広がっていく――そんなダイナミックな自然の循環をタイポグラフィーで表現した。

このデザインはホテルのユニフォームやオリジナルグッズにも展開され、街の新しいシンボルとして息づいている。

「ヘリテージタワー」のファサードを彩る、ローレンス・ウィナーのタイポグラフィー ©Shinya Kigure

ローレンス・ウィナーによるデザインは、オリジナルグッズにも展開 ©Shinya Kigure


レアンドロ・エルリッヒによる、幻想的な光のアート「ライティング・パイプ」

館内に足を踏み入れた瞬間、視界いっぱいに広がる圧巻の景色に心を奪われる。1階から4階までを大胆に繋ぐ吹き抜けでは、金沢21世紀美術館の常設作品「スイミング・プール」や延べ61万人の動員を記録した森美術館の展覧会などでも話題の現代アーティスト、レアンドロ・エルリッヒによる光のインスタレーション「ライティング・パイプ」が訪れた人を迎える。

吹き抜けでは、レアンドロ・エルリッヒによ「ライティング・パイプ」が存在感を放つ ©Shinya Kigure

毎晩21:00になると「ライティング・パイプ」は一斉に色を変え、幻想的な光のショーが始まる。宿泊者だけが体験できるこの瞬間は、まさに没入型のアート作品だ。

毎日21:00には、幻想的な光のショーが始まる ©Katsumasa Tanaka


現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之による、バー「真茶亭」

グリーンタワーの一角にひっそり佇むバー「真茶亭」は、現代美術作家の杉本博司と建築家の榊田倫之によって設立された建築設計事務所「新素材研究所」がデザイン。無垢の杉を用いたカウンターは、木目が水の波紋のように広がり、職人の手仕事によって仕上げられた積層ガラスが静かな輝きを放つ。

空間そのものがアート作品となる、わずか6席の特別な茶亭。訪れる際は予約必須だ。

グリーンタワーの一角にひっそり佇むバー「真茶亭」©Hiroshi Sugimoto (Courtesy of New Material Research Laboratory)

わずか6席の「真茶亭」は、空間そのものがアート作品 ©Hiroshi Sugimoto (Courtesy of New Material Research Laboratory)


これだけでも錚々たる名が連なる「白井屋ホテル」。館内に点在するアートも圧巻だ。たとえば、杉本博司の「ガリラヤ湖、ゴラン」、五木田智央の「The Demon of Jealousy」、安東陽子のテキスタイル「Lightfalls」、ライアン・ガンダーの「By physical or cognitive means (Broken Window Theory 02 August)」など、ここではとても紹介しきれないほどの名作が随所に散りばめられている。

杉本博司「ガリラヤ湖、ゴラン」 ©Katsumasa Tanaka

五木田智央「The Demon of Jealousy」 ©Shinya Kigure

東陽子「Lightfalls」 ©Shinya Kigure

ライアン・ガンダー「By physical or cognitive means (Broken Window Theory 02 August)」 ©Shinya Kigure

宿泊者には、館内を巡る無料アートツアーが毎日2回開催されているので、気になる人は参加をおすすめする。建築やアート、ホテルが歩んできた歴史、前橋のまちづくり、さらにはアーティストが込めた想いや制作秘話まで。⽩井屋ホテルでの滞在が楽しくなる物語の数々を、知識豊富なスタッフが案内してくれる。

毎日2回開催されるアートツアー ©Shinya Kigure

ただ泊まるだけにとどまらない、感性を揺さぶる体験がここにある。建築とアート、デザインと歴史、そして街の未来が重なり合い、ひとつの物語を紡いでいく。「白井屋ホテル」は、旅人をもてなす場所であると同時に、前橋という街そのものの魅力を映し出す舞台でもある。

来年は前橋国際芸術祭のビエンナーレが初開催され、「白井屋ホテル」もその会場のひとつに加わるという。訪れる理由が、またひとつ増えそうだ。



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